流星ワゴンは、重松清さん原作の小説です。
実際に単行本を読んでみましたが、家族・親子関係・未来にどう向き合っていくのか?などについて考えさせられる深い内容でした。
ここでは、私が単行本を読んでみた感想やあらすじなどについて、書いていきたいと思います。
心なく、親父の見舞いに行く主人公・一雄
ある11月の日のこと、主人公の一雄(カズオ)は、末期のガンで入院している父の見舞いから帰ってくるところでした。
7月に職を失った一雄は月に2~3度見舞いに行っては、「お車代」として入院している父から帰宅のための費用をもらっていました。
見舞いに行く目的は、別に父が心配だったのではありません。
この「お車代」のおつりを生活費の足しにするため。
一雄は小さい頃から父が嫌いでした。
父は、どんなことも勝ち負けにこだわり、子供の意見など聞かず、弱肉強食とでも言うように“サラ金”の事業で成功し、一雄を育ててきました。
いつでも力で周囲をねじ伏せてきた父を好きにはなれなかったのです。
また、現在の一雄の家族は崩壊していました。
息子の広樹が受験に失敗して引きこもりとなり家で暴れ、妻の美代子は謎の用事で家を空けること(朝まで帰らないことも)が多くなりました。
家の中も荒れ放題で、ソファは広樹に切り刻まれ、家事をする者もいないので食器や洗濯物は山のように溜まっていました。
一雄は見舞いから家に帰る途中、最寄駅で「もう家に帰りたくない…。いっそのことこの世からいなくなってしまいたい…」と思うようになっていました。
ワゴンとの出会い
そんな気が滅入っている時に出会ったのが、ワインカラーのオデッセイ。
このワゴンを運転しているのは、5年前に交通事故で亡くなった橋本さん。
そして助手席に乗っているのは、同じく5年前に亡くなった橋本さんの息子、健太くん。
健太くんに「遅かったね、早く乗ってよ」と言われ、一雄はこのワゴンに乗ることになりました。
なんとこの車は、乗っている人の大切な日にタイムスリップ出来る不思議なワゴンなのです。
やがて一雄の大切な日、1年前の夏の新宿にタイムスリップしていました。
1回目のタイムスリップ:1年前の新宿(夏)
驚きを隠せない一雄。
新宿のスクランブル交差点にいたのです。
この日がどんな大切な日だったのか…?
1年前の一雄はここで、知らない男性と歩いている妻・美代子を見かけたのでした。
しかしその時は「人違いだ」と自分に言い聞かせ、そのまま仕事の商談へと向かったのです。
ここに現れたのは自分と同じ年齢(38歳)の父でした。
父は「親父と呼ぶな!チュウさんと呼べぇ。わしらは朋輩(親友以上の仲)じゃけぇ」と言いました。
そして、美代子を突き止めなくてもいいのか?とも言いました。
あとをつけていくと、やがてホテルへ。
出てくるまではレストランで時間をつぶし、やがて出てきた男を問いただすと、「美代子とは始めて会った」とのこと。
なんと美代子はテレ○ラを使って知らない男性とホテルへ行っていたのでした。
流星ワゴンの事故現場
いつの間にかワゴンに戻った一雄は、橋本さんにある場所へ連れてこられました。
そこは、橋本さん家族が交通事故を起こしたカーブの道。
橋本さんは前々から健太くんをこの現場に来させようと思っていました。
自分の死を受け入れさせ、成仏させるために。
それが橋本さんにとってせめてもの償いでした。
それでも健太くんは来たがりません。
ずっと車の中から出ないのです。
そこで橋本さんは一雄にお願いをするのです。
「健太が事故現場に来るように、話してくれませんか?」と。
2回目のタイムスリップ:クリスマスイブ…広樹の模試結果発表の日
また、タイムスリップをした一雄は、今度は息子の広樹と待ち合わせをしているショッピングセンターにいました。
この日は広樹の、塾のクラス分けも兼ねた大切な模試の結果発表を受けていました。
でも結果は良くないものでした。
一雄は「この時に勉強を応援するのではなく、受験を辞める提案をするべきだったのでは?」と思い、その方向性で広樹に接しようと決めていました。
広樹を待つ間、隣にいたチュウさんは「一緒に観覧車に乗らんか?」と提案。
一雄が子供の頃は一緒に乗ることはありませんでしたが、なんと父から誘って来たのです。
その際、記念撮影までして。
観覧車を乗り終え、広樹と会い、食事に行く三人。
一雄は広樹に「受験辞めるか?」と提案。
しかし、広樹は「変なこと言わないでよ。頑張るからさ!」と一蹴。
結局、“広樹が受験をする”という過去を変えることは出来ず。
帰りにクリスマスプレゼントを広樹に買ってあげた一雄。
するとチュウさんも「わしも買ってやる」と。
一雄にお金を借りて“黒ひげ危機一髪”を買うのでした。
一雄が子供の頃におねだりして買ってくれなかった“黒ひげ危機一髪”を…
ワゴンの主、橋本さんと健太くんの意外な関係
またまたワゴンに戻ってきた一雄。
とても疲れた様子です。
どうあがいても過去を変えることが出来ないことにウンザリした様子。
つづいて橋本さんに連れてこられたのは、健太くんの夜の小学校でした。
しばらく一雄は健太くんとサッカーのパスをして遊んでいましたが、突然健太くんが「学校探検に行こうよ!」と。
学校内を探索している時に一雄は衝撃の事実を知るのです。
それは、
- “健太くんは橋本さんの実の息子ではない”ということ
- 橋本さんは父親らしいことがしたいがために免許を取り、始めてのドライブで交通事故を起こしてしまったこと
- 健太くんがまだ生きている時は、橋本さんをシカトしていたこと
です。
しかしそれを聞いて一雄は、「俺が広樹と最後にドライブしたのはいつだったろうか?」と思うのでした。
ワゴンに戻ると、そこにはなんとチュウさんが。
橋本さん曰はく、「こんなにも後悔を背負っている人は会ったことがない。だからこのワゴンに連れてきてしまった。」
このワゴンにはこれまでも多くの人が乗ってきました。
そして乗ってくる人というのは、この世に後悔のある人。
その後悔が全てなくなるまで、ワゴンはその人のために走り続けるのです。
また走り出したワゴン。
そして会話の中で、自分の寿命がもうすぐだと知ったチュウさんは「今すぐワゴンを下ろせ!」と言って聞きません。
しかし健太くんは「降りると死んじゃうんだ」と教えてあげます。
それにも耳を傾けないチュウさんを止めようとした一雄と健太くん。
橋本さんは「健太!そっちに行くんじゃない!」と注意します。
気が付くと、一雄、チュウさん、健太くんが過去にタイムスリップしていました。
3回目のタイムスリップ:息子の広樹と妻の美代子の秘密
3人は駅のホームにいました。
この日は一雄のグループ企業の会長の葬式。
そしてこの日に開催される精進落としに参加しなかったがために、一雄はリストラリストに載ることになるのでした。
ですがもっと大切なことがあるのではないか?
チュウさんは仕切りに「この近くに大きな公園はないか?そこに広樹がいるような気がする」と言います。
なんとこの近くには公園がありました。
そこにたどり着くと広樹の自転車が。
遊歩道を奥まで進むと、とある建物の裏側にはパチンコでペットボトルを打ち抜く広樹の姿がありました。
そのペットボトルには広樹が恨んでいる人の名前のお札が貼ってあります。
この時やっと一雄は、広樹が1人受験をすることで、みんなからいじめられるようになってしまったことを知ったのでした。
⇒ドラマ:流星ワゴン。息子の広樹が引きこもり(不登校)になった原因(理由)は同級生からのいじめだった。
今まで分かってやれなかったことを悔やむ一雄。
この時、一大決心をしたのでした。
家に帰った一雄は、美代子に「引っ越しをする!広樹は受験する私立にすべて落ちる!広樹を二中(いじめっ子が進学する公立中学校)には行かせない!」と言います。
美代子は驚き、「酔ってるの?勝手なこと言わないで!頭おかしくなったんじゃないの?明日病院に行ってきて」などとまともに取り合ってくれません。
そこで一雄はさらに突っ込んだことを言います。
「いつも会っている男は誰なんだ?そういえば明日湯島天神に広樹の合格祈願に行くんだろう?また男と会うのか?合格祈願のついでに男と会うのか?それとも男と会うついでに合格祈願をするのか?」
まだ「湯島天神に行く」と伝えていなかった美代子は困惑します。
そして一雄は「明日は仕事を休んで、一緒に湯島天神に行こう」と提案。
美代子も白状し、「午後に男と会うから、午前に合格祈願をしに行こう」と言います。
夫婦で寝ている時、一雄はすべてを美代子に教えます。
- 自分はすべてを知っていて、数日経てば何も知らない一雄に戻っていること
- タイムスリップしてきたこと
- 広樹が受験に失敗し、家庭が荒れること
- 美代子が秋に離婚を切り出してくること
- 離婚をするなら早めにするほうがいいということ
- 広樹が荒れると分かっているのだから、受験に失敗したらすぐに引っ越しをしてほしいということ
など
美代子はそれを信じると言いました。
次の日、広樹が学校に出掛けた後、一雄と美代子は湯島天神へ。
ここで美代子は一雄にすべてを告白します。
「別に一雄のことを嫌いになったわけじゃない。ただ、相手が夫では満たされなかった。1日限りの関係を欲していた。中毒みたいに」
⇒【流星ワゴン】妻の美代子はなぜ内緒で外出するのか?原因や会っている男の正体、原作とドラマの結末の違いについて。
今後、美代子が離婚を切り出す理由も、こうした自分に耐えられなくなったからだと話していました。
そして合格祈願が終わり、…
またワゴンへ。
チュウさんとの別れ
この時には一雄の後悔もすべてなくなっていました。
未来を劇的に変えることは出来なかったけど、美代子と広樹の未来のために、伝えるべきことはすべて伝えました。
「すぐに離婚をし、二中の区間から引っ越しをする」
実際は未来が変わらないかもしれないけど、2人が幸せになるために出来ることは行いました。
橋本さんは「いいところに連れて行く」といい、ワゴンはチュウさんの両親のお墓につきました。
もうすぐここに入るということを、チュウさんは知ることとなったのです。
続いて、ワゴンが着いたのは、橋本さんと健太くんが交通事故を起こしたカーブ。
健太くんは現実世界にいた時、母親に会いに行っていました。
そして見たのは、母が公園で小さな赤ちゃんを砂場で遊ばせている姿。
すでに再婚し、新たな家庭を築いていたのです。
このことから橋本さんは、もう未練のなくなった今の健太くんなら成仏できると判断していました。
健太くんを一人で事故の合った場所に行かせます。
もうこれで橋本さんと健太くんは離れ離れになったと思いきや、なんと健太くんは成仏せずに戻ってきたのです。
理由は「僕がいなくなったらお父さん運転中にエアコンつけられなくなっちゃう。両手で別々のことが出来ないくらい不器用だから」というもの。
この2人はこれからもドライブを続けるのだと思います。
さて、一雄も現実世界に戻る時が近づいてきました。
橋本さんはご厚意で、一雄とチュウさん2人っきりで話す機会を与えます。
そこは病院の前の海沿い。
そこで色々と話し、最後にはチュウさんの夢だった、「2人で海に立ちションする」を叶えます。
チュウさんにも、もう後悔することはありません。
ワゴンはまた走り出し、そして一雄は元の世界に戻るのでした。
⇒ドラマ流星ワゴン:なぜチュウさん(香川照之)は38歳と若い状態で一雄(西島秀俊)の前に現れたのか?理由や意味について。
一雄、現在に戻る
一雄は最初にワゴンに乗った場所、自分の家の最寄駅のベンチにいました。
足取りは重くとも、家へ向かいます。
未来は数日で簡単に変わるものではありません。
家へ帰ると荒れ放題で、ソファは広樹によって引き裂かれたまま。
未来を変えることは出来ませんでした。
とりあえず、荒れ放題の汚れた家を片付けることにしました。
広樹が部屋から出てきて「何してるの?」
一雄「掃除してたんだ。起きてたのか?」
広樹「悪い?」
そっけない返事。
それでも、1つ変えることが出来たことと言えば、家に“黒ひげ危機一髪”があったこと。
一雄は1人で、夜中までこれで遊びました。
広樹がリビングに入って来た時、一雄は「1回やってみろよ!」と。
嫌々ながらも広樹はナイフを刺してみると、いきなりアタリで黒ひげが飛び出しました。
広樹はビックリしました。
一雄はここで「広樹の勝ちだ。ルールは自分で変えられるんだ」と言います。
朝6時。
美代子はまだ帰ってきていませんでした。
駅まで迎えに行く一雄。
美代子「前も一雄が迎えに来たことあったっけ?」
一雄「覚えてない」
一雄はここでシラを切りますが、実は過去を変える途中で美代子を迎えにきていたことがありました。
一雄は美代子の手を握り、車へといざないます。
現実世界に戻ってから5日後、チュウさんは亡くなりました。
家族3人でお葬式に出席。
良かったことは、一雄が父の葬式で涙を流せるようになったことです。
あのワゴンの出来事のおかげで、一雄は父の想いを知ることが出来たのです。
生活は、美代子が朝食を作り、一雄がコーヒーを入れる係に。
広樹は、昼夜逆転ではない生活に変わりました。
朝は3人揃ってご飯を食べるようになったということです。
また、美代子は外泊がなくなってきました。
一雄は思うのでした。
もし、家族がこのまま崩壊しなければ、来年の春に橋本さんと健太くんの事故現場へ家族3人で赴き、お参りに行こうと。
そして、ドライブの中で、 不思議なワゴンの話を家族に聞かせてあげようと…。
⇒ドラマ「流星ワゴン」の最終回(結末)のあらすじ&ネタバレ。原作との違いについて。
⇒ドラマ「流星ワゴン」最終回の感想とあらすじ&ネタバレ。一雄(西島秀俊)が死ななかった理由とチュウさんのやり残したことについて。
感想
この物語は、自分の人生に希望を見いだせない一雄がもがきながらも家族を見直していく話です。
また、今まで分かりあえなかった父を、父になった一雄が改めて考える話でもあります。
テーマは家族、親子。
身近な存在なんだけれど、実際には分かりあえてない部分も多いというのは、実際に現実の家族の間にあることだと思います。
しかし、そうした残酷な現実に遭遇した一雄は、最終的に家族の幸せを最優先に考えます。
また、自分の父“チュウさん”も家族のことを最優先に考えてきてくれたんだということを知りました。
(ワゴンの主、橋本さんと健太くんもかけがえのない絆で結ばれていました)
この本を読み終わった時は、
家族=いくら嫌っていようとも最後には思いやる存在
なんだなと感じました。
「家族とは、陰ながら支え合うもの」
普段からは気付けないようなことを気付かせてくれる本でした。
とても感動できるので、一度読んでみてはいかがでしょう?